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大阪地方裁判所 昭和41年(手ワ)187号 判決

理由

本件請求原因事実は、被告側の認めて争わないところである。

そこで被告らの主張について考えてみる。

被告全国教材(株)と被告(株)集画堂両名の、本件手形が書替前の旧手形である、という主張(抗弁)について。

被告全国教材が振出し、受取人(被告)集画堂が原告より手形割引を受けた本件手形について、集画堂が、その後支払延期のため等の理由により新手形を差入れたとしても、旧手形たる本件手形が現に原告の手許に存置されている以上、原告は新、旧いずれの手形を以て債権の回収を計るも自由であつて、新手形差入れの際、旧手形を返却すべく約束があつた場合のほか旧手形上の権利を喪失する謂れがない。

本件のような場合、新手形の差入れは単に旧手形の請求を猶予する趣旨の許になされたものと考えるべく、且つ新手形についても、約束通りの決済が済まされていない、というのであるから、被告の主張は、理由なきに帰する。

被告全国教材(株)と被告(有)島田教材社両名の融通手形の主張(抗弁)について。

被告両名の主張は、結局振出人である被告両名が受取人集画堂に対し融通手形として発行したことを知りながら、集画堂から本件手形を取得した原告に対しては、被告両名は支払責任がない、というに尽きる。

原告が集画堂より取立を受任しているにすぎない等、原告と集画堂間に金銭取引上なんらの原因関係が存在しない場合はとも角として(以上の点の主張がなく、従つて)、そうでない本件においては、被告両名の右主張は、原告の本訴請求を排斥しうる有効な抗弁とはならないのである。

そこに、融通手形の特質が存するのであつて、即ち、融通者は被融通者が他者より資金融通を受けるため手形を振出したのであるから、その他者が金融を供与する際右事情を知ると知らぬと取扱上一向変るところがないことは、多言を要しない。

およそ、有価証券たる約束手形を振出すことは、これにより振出人の財貨が券面上に化体せられ、同人の財貨は当然且つ直ちに額面金高だけ減少をきたすものと思料すべく、従つて約束手形の振出、発行は極めて慎重を要する事項であつて、極力その濫発を妨止するよう務めるべきことは万人一般の既に承知しているところである。

かように、約束手形はそれ自体重要なる財貨として法律制度上も規定せられているのにも拘らず、近時約束手形を借用証書と混淆し、乃至は与信行為の簡易な道具、手段と看過し、以て支払補填すべき財貨を持合わさない人々によつて無雑作に濫発され、安易に発行しながら結末には無関心を示し、端ては、手形の濫発が自己の不行届に基因していても、敢えて言を弄して手形上の責任を他に転化すべく強弁する傾向が極めて顕著であるというべきである。

かように、一部における手形価値の低迷は結局手形関係人の手形制度無自覚、不認識に原因するのみであつて、これによつて、法律制度上、手形の性格を寸毫も変迭させるところはないというべく、須らく、流通面における手形の取扱い、思向性等を充分把捉しつつ、裁判を通じて制度元来の状態を復元し、以て手形流通市場を制御する必要があり、今回の手形訴訟制度の制定等もこの点についての一片の施策を表象しているものというべきである。

かような次第で、被告らの右抗弁はそれ自体理由がない。

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